あんこ信託契約
前回(下記記事)の続きです。
ーそもそも、田村さんはXさんと、どういう約束をしたのでしょうか?
「ズバリ、『あんこ信託契約』です」
ーお、おぅ。なんでまたそんなご契約を?
「X氏の健全なるあんこライフの充実が目的です。その目的のために私はX氏より金銭を信託されています」
ーそのお金はあんこ(以下、あんこの入った食べ物をあんこと総称します)を買うためのものですか?
「もちろんです。このお金はあんこを買うためのものです。いくら美味しそうでも、これでドーナツやシュークリームを買ってしまったら契約違反です」
ー買ったあんこはどうされるのですか?
「袋などに自分の名前を書いておきます。こうすることで自分が名目上の所有者であることを世に示しておけます」
-では実際の所有者であるX氏があんこを食べることがあるのですか。
「はい、X氏は私と同様、あんこをキープしておくことが苦手なので(手元にあると全部食べてしまう)、健康のためにも定期的に一定量お渡しすることにしています」
ーX氏から追加であんこを信託されることなどはありますか?
「はい、箱入りの詰め合わせを頂いた時などは、全部一氣に食べてしまわないように私がお預かりすることになっています。その時も同じように箱に私の名前を書いておきます。最近では湖月堂さんの『ぎおん太鼓』や江戸うさぎさんの『しゅうもちあん』を信託されました」
ー将来、X氏が認知症になって成年後見人がついた場合、田村さんが預かっている金銭やあんこはどうなりますか?
「なーんにも変わりません。信託財産は成年後見人の財産管理の対象外です。そうなったとしても変わらずに私はX氏のためにあんこを買い続けます」
ーなるほど。もし『あんこ信託契約』がなければX氏は自由にあんこを食べられなくなってしまうのでしょうか?
「そうですね。そうなったら、あんこ購入資金も含めて、X氏のすべての財産を成年後見人が管理することになるので、成年後見人によっては嗜好品たるあんこは生活には不必要なものとして、買ってくれなくなるかも知れません。そうなったらX氏が気の毒です。あんこはX氏にとっては憲法13条で保障されている幸福追求の手段でもあるので、そこは死守せねばなりません(キリッ)」
ーなるほど、法律家らしい?ご意見ですね。
「ただ、『あんこはまだか!』『今さっき食べたところですよ』という応酬が予想されるので、別途対処が必要となってくるかも知れませんが(;’∀’)」
-で、もしX氏が寿命を全うした場合、田村さんが預かっている財産やあんこはどうなりますか。
「そうなった場合は実質上の所有者をX氏から子のY氏に引き継ぐことを『あんこ信託契約』で定められています」
-それって『遺言』とどう違うのでしょうか?
「遺言だと、次の代までしか財産の承継先を決められないのですが、『あんこ信託契約』ではその先までX氏の意思を反映することが可能です。X氏はあんこの素晴らしさを末代まで伝えたいということで、Y氏の次の承継先としてお孫さんのZちゃんを指定しているのです」
ーなるほど、「信託」はX氏にとっては生涯あんこを楽しんで、末代までにもご自身のあんこ愛を伝えておくためのうってつけのツールと言えそうですね。
「その通りです!『信託』は本当に素晴らしい制度です。私も一専門家として、あんこニストとして、『信託』の素晴らしさを伝えていきます!」
「信託」を私のすきなあんこで説明してみました(笑)
専門書的な説明をすると、信託とはすなわち「ある目的のために信頼のおける人のために自分の財産を託すこと」です。その目的達成のために所有者を「名目上」と「実質上」に分けることが必要になるのです。
要するに、
信託の本質は「アンパンの袋に名前を書くこと」なのです(笑)