親子の縁は切れるのか?
前回の相続廃除・欠格の話に関連したお話。
よく、昔の映画とか見ていると父親が放蕩息子に向かって「オマエは勘当だ!」みたいなシーンがあったりします。
勘当(かんどう)は、親が子に対して親子の縁を切ること。
Wikipediaより
では勘当した場合、法律上の効果はどうなるのか?答えは…
何も変わりません!
戸籍に「勘当した」という記録がつくわけでもありません。
ですので、放蕩息子を勘当しても父親に相続が発生した場合、相続欠格の事由に該当しない限り息子は(遺留分ありの)相続人となります。
だったらあらかじめ廃除しておけばいいのでは、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、前回述べた通り廃除が認められることはなかなかないですし、息子の放蕩ぶりが果たして民法第892条の「著しい非行」に該当するかどうか。
あるいは、逆に子が親に向かって「親子の縁を切る」ということもあるかもしれません。
具体的なやり方としては「分籍」が考えられます。
親の戸籍から抜けて自分の新しい戸籍を作ることです。
ちなみに、結婚した場合は新しい戸籍を作る(あるいは配偶者の戸籍に入る)ので、親の戸籍からは必然的に抜けることになります。
ところが、分籍して新しい戸籍を作っても、戸籍には父親と母親の欄が記載されることになっているので、親子の縁が切れたことになりません。
あるいは、両親が離婚していたとしても、片方が親権や監護権を喪失するだけで、親子関係は切れません。
戸籍に記録されている父と母の苗字が違っているだけの話です。
まあ、親子の縁を切るのは事実行為(例、遠いところで暮らす、LINEをブロックなど)でしかできないということでしょうが、唯一、法律上でも親子関係を終わらせる制度があります。
それが「特別養子縁組」です。
民法では第817条の2から第817条の9に規定されています。
枝番(~の2)になっているので、後から作られた条文だということが分かります。
民法第897条の2
第1条 家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
第2項(省略)
民法で言うところの養子には「普通養子」と「特別養子」があります。ほとんどが前者です。
普通養子の場合、実親との親子関係はそのままです。
子は実親の相続人にも養親の相続人にもなれます。
この特別養子縁組というのは、何らかの事情で実の親子関係に恵まれなかった15歳未満の子の福祉のための制度です。
(詳しくは法務省のサイトをご参照ください。)
最近では里親の制度も広がっていますが、一歩進んで、実の親子関係を終わらせてまでガチの親子関係(どんな表現だ)を作る制度になります。
もともとは養子になる子の要件が6歳未満でしたが、令和元年の改正により15歳未満に引き上げられました。
それだけ、「生みの親より育ての親」という考え方が広まって来たということでしょう。
これはこれで悪くないと思います。
ですが、司法書士がこれを言って良いのかどうか分かりませんが、戸籍なんて所詮「書類」です。
ここだけの話、特に昔は戸籍上の親子関係と実際の(生物学的な)親子関係が合致しないことも珍しくなかったようです。
もちろん、相続では戸籍上の親子関係で判断しますが。
そもそも、我々は両親(もっと言えば数多くのご先祖)が存在したからこそ、地球に来ることができたのですから、親子関係は好き嫌いにかかわらず切れることはありません。
だからこそ、たとえ両親が離婚したとしても、なるべくなら(虐待を受けていた場合は別として)ある程度大きくなるまでは、面会交流などで親の愛情を受けられる環境を整えるのが子の福祉にかなっています。
最近「子の連れ去り」というのが社会問題となっています。
配偶者の一方が勝手に子供を連れて別居して、もう一方の配偶者が子供に会えなくなってしまうことです。
れっきとした犯罪(未成年者誘拐罪)になるという意見もあります。これを話すとまた長くなってしまいますのでこの記事では深入りしませんが、子のためを考えるといかがなものかと考えます。
夫婦間の事情と親子間の愛情は切り離して考えることが大切かと。