続・愛人に全財産!?
前回↓の続きです。
結論を申しますと、D子は全部もらえる場合ももらえない場合もあります。
遺言そのものは有効です。
「愛人に全部上げて、家族に一銭も残さないなんてけしからん!」
とは裁判所は言いません。
A氏が自分の財産を誰にあげようと、それはA氏の自由です。
しかし、法律には「遺留分」という制度があります。
何かと言えば、相続人のうち、配偶者・子・直系尊属には相続財産などについて一定割合について優先的に確保されます。
相続人が配偶者と子、あるいは配偶者と直系尊属であれば全体の2分の1、直系尊属のみであれば全体の3分の1です。
遺留分の規定の趣旨は、遺された家族の生活手段の確保です。
ですから、兄弟姉妹には遺留分はありません。
本件では、A氏の遺言には全財産を愛人A子に遺贈とありましたが、2分の1については遺言の内容に関係なく、B・Cがもらえます。
遺言に何を書こうが、法律が個人の意思に優先します。
ここで、カンの鋭い方は、
「そしたらなんで法務局はA氏が遺言書を預けたときに遺留分のことを指摘しなかったんだ。不親切だな」
とお思いになったかも知れません。
確かに、遺留分というツッコミどころはありますが、D子に全財産への遺贈は遺言の内容としてはあくまで有効です。
というのは、BとCが自分の遺留分を確保するためには行動を起こさねばならないからです。
具体的には直接D子に対して、侵害された自分たちの遺留分に相当する額を支払えと言います。(内容証明を送るのが一般的です)
それでもスルーされた場合は、家庭裁判所に対して遺留分侵害額請求の調停、あるいは裁判を起こす必要があります。
何もしないと時効にかかってしまい、請求できなくなってしまいます。
民法第1048条
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
すなわち、BとCが自分の遺留分が侵害されていることを知ってから1年、かあるいはAの相続開始から10年経てば、D子に請求できなくなります。
ですので、10年間何もしなければ、晴れて全財産がD子のものになることが確定します。
まさに「権利の上に眠るものは保護されない」という話です。
まあ、そんなことはなかなかないとは思いますが。
ちなみに、民法第1048条にもありますが、遺留分侵害の対象となるのは相続財産に限らず、生前贈与なども含まれます。
相続財産、生前贈与などをすべて合算して、その2分の1(あるいは3分の1)で算出することになります。
もしA氏がTなどの専門家に相談していれば、Tはきっと遺留分の説明をしたことでしょうね。
A氏が納得するかはさておき。
次回は遺留分を考慮した遺言についてお話したいと思います。
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